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2014年9月 4日 (木)

No.116:警察無線機の未来技術遺産登録を慶ぶ (1)

8月28日の新聞・テレビは約60年前に警察庁が開発た警察無線機が、国立科学博物館によって 「未来技術遺産」として登録された事を報じました。

この登録は国立科学博物館の産業技術史資料情報センターがこれまで行ってきた所在調査・技術研究を元に、

1. 科学技術(産業技術を含む)の発達史上重要な成果を示し、次世代
  に継承し て いく上で重要な意義を持つもの.
2. 国民生活、経済、社会、文化の在り方に顕著な影響を与えたもの.

の2点を選定基準として決定する、との事です。

Mpr1_a 上図は、その写真です。机上に並ぶ数台の機器が、今回登録されたモノで実に60年以上も前に開発・実用化されました。図の右手に手持ちしているのは参考のための現用機ですが、その大きさに格段の差が有る事が判ります。

A 老生は1950年代前半から1980年代後半に至る30有余年、この種の移動通信機器に関る技術開発に携わった経験を持ちますので、今回の警察無線機の「未来技術遺産」登録を感慨深く受け止めました。それで往時を追想して、この小文を纏めました。

日本の警察がパトロールカーを多数揃え、それに無線機を搭載して近代化を図るという企画は、米占領軍総司令部 (GHQ) からの強い要請によるものとされています。

当時、この種の無線機の技術に就いて米日の差は大きく、その差を埋めるために、国家プロジェクトともいうべき官産学の共同研究体制が採られました。
米軍から貸与された1組のサンプル機と1冊のマニュアルを囲んでの勉強会からスタートしたのです。中核となる技術は"超短波周波数変調方式"という分野ですが、当時の日本にはその技術の実務に通暁している人材はゼロに近かったのです。

前頁に示した図は「電波日本」という専門誌の警察無線特集号の表紙です。警察無線の開発の経過を詳記した唯一の公刊資料だと思われます。(警察庁や各企業の内部資料は残っていたとしても、外部の者が見るのは困難です。)

ここで勉強会について触れます。サンプル機とマニュアルを前にしての勉強会は、幕末期にオランダの解剖学書「ターヘル・アナトミア」を邦訳した蘭方医・杉田玄白らの苦心に比肩されると関系者は語っていました。
勉強会の委員は自己の所属する機関に割り当てられた宿題を持ち帰り、その解答を次の勉強会で披露し、それを巡って討議を行うというパターンを反復しました。その宿題は実験や測定を要するテーマが少なくないので、各組織 (国立研究機関およびメーカー) とも数人以上のスタッフが専任に近い形で協力しました。それですから、委員とスタッフの総数は数十人以上に及ぶ大世帯でした。

その頃、関係者が熟読した専門書が数冊有りました。

Frequency_modulation_2 B_2 Fm

上左図は米人フントの著作 "Frequency Modulation" です、数式は少ないのですが、記述が冗長で読み易くは有りませんでした。また原理の説明が主で実務の解説は少なかったと記憶します。
上中図は斯界の権威・八木秀次博士の監修、前田・林 博士の編纂に成る大部の書物「周波数変調」です。第二次大戦の最中に脱稿しましたが、出版は戦後に持ち込まれました。中堅の研究者を動員し、内外の研究成果を纏めた労作ですが、基礎理論が多くて、現業の開発技術者には難解でした。
上右図は染谷博士が著した「超短波移動無線」です、一番新しく且つ実務担当者に最も親しまれたのではないかと思われます。

どの著作もハウトゥの実務書では無いので、読みこなして応用するには、相応の努力が必要でした。なお、これらの書物は今でも東京神田の理工系図書専門の古書店で見かける事が有り、かなりの値が付いていました。

この機材の要求元は警察庁ですが、内務省 (今の総務省)・逓信省 (今のNTT)・文部省 (今の文部科学省) などの諸官庁も関与しました。当時の日本最高の研究組織とも云うべき "日本学術研究会議"が "超短波通信研究特別委員会"を創り、警察のプロジエクトに協力しました。
今日、高機能携帯電話機の競争は激烈ですが、民間企業の自由競争が原則で国の機関は支援する立場です、その当時は国家が直接に推進したと云えるわけで、如何に国家の期待が大きかったか推察できます。このプロジェクトは日本が電子王国を築く端緒になったと云っても過言ではないでしょう。

                         <以下次号>

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