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2014年9月 9日 (火)

No.118:警察無線機の未来技術遺産登録を慶ぶ (3)

警察無線機の開発プロジェクトは、無線機本体のみならず、それを構成する電子部品・素子の国産化を図りました。さらに機器の性能を試験・評価する測定器の国産化も要望されました。
一般に新しい原理に基づく新製品が世に現れる時、その有用性を定量的に試験する測定器が必要になります。それですから、目的の機器を開発する時には併行して測定器の開発を行う必要が有ります。

特に電気・電子そのものは人間の感覚では捉えられませんから、それを駆使した警察用の超短波FM無線機機に関して有効な試験測定法を検討し、それに適した測定器を創り出すことは、それ自体も重要な研究テーマでした。

この要請に対してY電機は、殆んど独力で「信号発生器 MA-1」および「側帯波直視装置 MB-1」を開発しました。

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上左図は「信号発生器 MA-1」、上右図は「側帯波直視装置 MB-1」です。これらの機器に就いては参考にすべきサンプルもマニュアルも有りませんでした。海外技術誌の僅かな記事や海外の測定器メーカーのカタログ等からヒントを得る一方で、教科書的な原理原則を基にして具体化を図るという手法を採りました。

Y電機において開発を推進したのは、旧海軍技研で受信機を研究していたO.G
氏と、旧多摩研でウルツブルグ・レーダの国産化を図ったF.S氏でした。 O.G氏は基礎的な調査研究を、F.S氏は具体化の開発研究を行いました。

これらの測定器は警察庁に納入され、検査・測定業務に活用されました。また無線機メーカーにも多数採用されました。測定器の開発に関しては、警察庁はメーカーに任せたようでコンクール的な手段は採りませんでした。Y電機が逸早く実用化したので他社は参入しませんでした。
(  測定器という機材は必要欠くべからざるモノですが生産数は非常に少ないという宿命が有ります。数十台以上の無線機器を検査測定するのに測定器は1台で事足りるからです。そのような事情が有るので、社外から調達できれば、敢えて自社開発をしないのが一般でした。)

上述したように、このプロジエクトは当時の先端技術であった "超短波FM移動無線機" の開発・事業化を図るに際して、無線機本体だけでなく、それに必要な電子部品・素子から試験測定器に至るまで総ての国産を策し、成功を収めました。
また、そのために官産学の協力体制を創りました。各企業はライバル関係を一時棚上げして情報を交換した結果、業界のレベルは急速に向上したのです。

このような手法は、後の高度成長期に海外から「日本株式会社」として揶揄を交えた羨望のコトバを投げかけられた開発手法の先駆であった、と老生は感じています。

また、続いて興ったテレビ産業は、日本の電子産業を確立して世界に覇を唱える端緒になりましたが、先行した警察無線機に関る超短波関連の技術が有力な基盤になりました。有力なテレビ・メーカーの中には警察無線機で「腕を磨いた」企業が少なく有りませんでした。

科学博物館の未来技術遺産に「PR-1型超短波無線電話装置」として選定の理由として「戦後の無線通信業界に大きな活力を与えるとともに、ここで確立されたFM移動無線の技術はその後各方面に普及していった。」と明記しています。

新聞などの記事では「今日の携帯電話・スマートフォンに繋がる技術」と解説したものも有りました。老生もそのように理解していますが、そこに至るまでは多くの紆余曲折が在りました。

警察が先鞭を付けたシステムは、特定の地域・特定の組織の中で使われる移動無線通信系であって、既存の固定有線電話系とは設計思想が異なり、設備機材も異質でした。
ところが、社会・経済の進展に伴い、両システムの融合化を図ろうとの動きが出てきました。

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その先等を切ったのは、上左図に示す "ワイアレス・テレホン" で、1970年の大阪万博にNTTが展示しました。プッシュ・ボタンにより、任意の相手を呼び出して通話できる携帯型の電話機で、世界初の試みでした。
その後、1979年末に東京で自動車電話が正規の運用に入りました。その機器は上右図に示すように、かなり大きく且つ高価でした。運用当初は東京都内で10万人の加入者が有れば経営が成り立つ、との試算があったそうです。

その後、世界各国で激烈な競争が行われ、今日のスマホ時代が到来したわけです。1896年にイタリア人マルコニーが無線電信を発明してから120年近い歳月を経ましたが、その間に幾多の研究者・技術者が関わり、技術思想に何度かパラダイム・シフトが生じました。警察無線機の開発実用化は、その道程で一時期を劃した、と云えるでしょう。
                           (本文終)

[参考資料]
1. 移動通信端末・携帯電話技術発展の系統化調査:科学博物館
2. http://homepage2.nifty.com/nakagen29/43.html
3. http://homepage2.nifty.com/nakagen29/44.html
4. http://homepage2.nifty.com/nakagen29/45.html
5. 移動通信の歴史:日本図書刊行会

                         <以上>

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