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2014年9月 7日 (日)

No.117:警察無線機の未来技術遺産登録を慶ぶ (2)

1949年、警察庁は「FM 無線機基本要求案」を作成して、製造会社に提示し、競争試作を行いました。業界では「警察無線コンクール」と称し、18社が応じました。厳しい検査に合格したのは、次の13社でした。A電気・H製作・H電機・K工業・K電気・M電機・M電産・N電気・N無線・O電気・T電気・T無線・Y電機。
その次には競争入札が行われ、数社が受注・生産・納入に漕ぎ着けました。

その時の製品が、今回の未来技術遺産に採り上げられたわけです。前回に示した図のように、かなり大きなモノでしたから、パトロール・カーに装着するのは大変な作業でした。

Photo Photo_3

上左図は装着の概念図です。送信機・受信機・電源 (電動発電機) は後部トランクに配置し、制御機・ハンドセット (送受話器) は運転席に、アンテナは後部バンパーに取り付けました。

当時の電子機器は総て真空管式でしたから、大きく重く、電源消費も多く発熱を伴いました。電源としては、低圧側には自動車に搭載の蓄電池をそのまま用い、高圧側には電動発電機 (低圧で電動機を回し、直結の発電機から高圧を得る) を用いました。アンテナはホイップ型と云われる形式で、車高を超える大きさで、走行中には撓うのが目立ちました。 

下図に送信機部の系統図の一例を示します。

Fm_4t_2

メーカーにより細部の違いは有りますが、大体はこのような構成です。源発振は高安定な水晶発振器で行い、次段で位相変調をかけ、それ以後は周波数逓倍を重ね、終段で電力増幅を行います。音声入力は、瞬時偏移制御回路を経て変調器に加えられます。
研究開発段階で、位相変調を行って等価的に周波数変調波を得るという技法が理解され難かったそうです。これは中心周波数を安定に保つこと、周波数偏移を得ること、という相反する要求を両立させる名案でしたが、直感的には判り難かったのです。
使用した真空管は低電力段はGT管を用い、高電力段は特殊な形状を有する専用管を使いました。

次の図は受信機の系統図の一例です。
これもメーカーにより多少の差異は有りますが、大略はこのような構成です。
高級ラジオ受信機に見られる高周波増幅付きスーパーヘテロダイン方式と大差ないのですが、周波数変換を2回行うダブルスーバーであること、検波器がFM波に対応したディスクリミネータであること、スケルチ回路 (雑音制御)が付加されていることが異なります。

Fm_4r

使用した真空管は、超短波回路については、ミニアチュア管、中間周波回路以降はGT管でした。

全体に共通する事項ですが、部品・素子は全部国産化しました。電子機器に用いる部品・素子は外見やカタログ数値だけではその眞の性能・機能は判りません。外部からは電気的特性を様々な条件で測定検査する、内部を分解して電気的特性との関りを調査する、というよう作業を積み重ねて正体を探ります。その上で試作を行うのですが、なかなか原型の性能は得られません。何か見落しか陥穽が有るのです。そのような作業を反復して、やっと原型に近い部品・素子が再現できるようにったのです。

付言しますと、この種の無線機の通話は「プレス・トゥ・トーク」という方式でした。これは送話と受話を交互に行う方式で、ある程度の馴れが必要でした。
また、固定地点に在る中央基地局 (親局) から走行中の多数の移動局 (子局) に一斉指令を発し、該当する移動局が応答する、という通信様式が行われました。中央集権制に類似していますが、軍隊・警察・消防のような業務に適していました。

この時代の無線機は非常にデリケートな機器で、運用は無線通信士が保守・整備には無線技士が当るのが常態でした。しかしながら、警察業務においては、専門家ではない警官が扱えるように要求されました。その故に在来の無線機に比して格段に信頼度が要求されました。
その一つの現われは、競争試作に於ける試験の厳しさです。例えばヒューズ切れ、同調ズレも失点に数えられました。これは当時のメーカーにとっては非常に苛酷な条件でした。結果として、このハードルを越える努力・研鑽が、日本製品の高信頼性に繋がったのです。

当時は未だトランジスタは発明されていませんでしたから、当然のことながら活性素子は真空管でした。1906年に三極真空管が発明されて、電気通信技術は大発展したのですが、寿命が短いという宿命が有りました。幾多の研究・改良が試みられましたが、1950年代でも 10,000時間を越えるのは難しいとされていました。
それですから、真空管を多用した警察無線機のMTBF (平均故障間隔) は数百時間と推定されました。この数値は、数十台の機器を運用すると10時間に1本の割合で交換を要することを意味します。それを専門家でない警官が行うわけですから、相応の研修は受けた筈です。
なお、この問題は、半導体の出現と進歩により、飛躍的に改善されました。
                             <以下次号>

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