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2016年1月24日 (日)

No.143:デッド・コピー物語:キャッチ・アップの時代(1)

大きな技術格差が存在する場合、それを急速に埋める手段として先進国の製品を手本として、そっくり真似る、という手法は何処の国でも、何時の時代でも行われたものです。我が日本も例外では有りません、しかも最も巧みに行い、アジア諸国の中で最初に近代化に成功したのみならず、敗戦後の廃墟の中から立ち直り世界トップ・クラス産業国家に成長させました。

老生は1950年代から1980年代にかけて情報・通信機器の開発に関わりましたが、初期の時期には、デッド・コピーかそれに近い経験をかなり持ちます。往時を回顧しながら私見を小文に纏めました。

「携帯無線機 SCR-536 の国産化」

老生が学業を終え、電機メーカーに就職して最初に取り組んだ仕事でした。この機器は米軍が太平洋戦線において使用し大きな成果を挙げた無線機です。戦後数年を経て自衛隊(旧保安隊)が発足した時に、同機を導入することになり国産化が図られたのです。
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このプロジェクトは米軍から示唆・勧告に基づいたと思われます。コピーする機材と関係資料が米軍から提供された自衛隊は、メーカー数社に国産化を指示しました。
この作業は官民合同の公認デッド・コピーでした。研究会が頻繁に開かれ、機材・資料の徹底的な調査・解析を分担して行いました。

老生は駆け出しの技術者でしたから、上司の指導で一部分の作業を行ったのみでしたが、現物や資料があって行うデッド・コピーでさえも、同等製品を量産にまで漕ぎ着けるには少なからざるマンパワーと時間を要することを痛感したものです。

その無線機の回路構成は正統的なもので、特に目新しいものでは有りませんでしたが、一驚したのは筐体(ケース)の頑丈なことでした。分厚いアルミ・ダイキャスト製で、打っても、叩いても、落としてもビクともしないのです。また、接合部にはゴム・パッキングが施され、水中に浸かっても機能を損ないません。いわゆる「武人の蛮用に耐える」構造でした。(旧日本軍の通信機材の筐体は板金細工で、バッキングの考慮は殆んどされていませんでした。)

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左図はその外観、右図は内部の基板、です。中身の構成要素は、真空管・抵抗・コンデンサ・コイルなどの見慣れた部品でしたが、多回路・多接点の板状のスイッチは目新しく、細長い柱状の高圧積層乾電池も初見でした。取り敢えず、入手できる部品を使い、バラック・モデルを組立て試験しましたが、予期の性能は得られませんでした。
検討の結果、部品素子の性能・均一性などに問題が有りそうだ、と云うわけで、その検討も進めました。電子部品は、機械工作物とは異なり、分解して中身を見ただけでは、殆んどタネは判りません。電気的特性を測り、それに基づいて内部の構造・材質を推定して試作し、その特性を測って調査するという過程を反復してオリジナルに近似させて行くしかないのです。
部品の配置や組込は、原型に倣うことで進められます。意外に難航したのは防湿・防黴塗料の開発でした。これは高温高湿のジャングル内の使用環境に応ずる為にプリント基板に吹き付ける塗料なので電気技術者の手に負えず、塗料関係企業に依頼したのですが、ここでも初めての要求で苦労したそうです。(防湿・防黴の効果が得られても電気的性能に悪影響があっては困ります。)
さらに保守・整備のための機材・資料の充実ぶりにも刮目させられました。通信技術などに知識も経験もない兵士を対象に、短時間でそこそこのスキルを得させるように準備したのでしょう。日本軍では数少ない無線機を訓練を経た通信兵にのみ扱わせたのですが、米軍は大量の無線機を一般の戦闘員にも使わせるという発想だったのです。戦記モノには「物量で押し捲くられた」という類の記述を散見しますが、大量の機材を有効に使いこなす体制の具現例と見られます。

1952_jscr536 このプロジェクトは約2年で目的を達成し、"JSCR-536" として自衛隊の制式機材として量産されました。左図には現在の携帯電話との比較を示しました。
いろいろと記しましたが、このプロジェクトは、単に機材のデッド・コピーに止まらず、兵器体系の企画・構築に始まり、携帯無線機の位置づけ、その製造・保守・運用に至るシステム思考についても影響したと思われます。そうして、その後の電子工業の発達の端緒になったと愚考します。

                       <以下次号>

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