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2016年12月18日 (日)

No.160:理系人の世界を活写した吉村昭 作品 (2)

「戦艦武蔵」

最近、久しく不明とされていた"戦艦武蔵"の海底における残骸の詳細がテレビで放映されて、多数の人々の関心を呼び起こしたようです。この艦は"大和型戦艦"の2番艦として登場したのですが、期待された戦果も挙げずに、大和特攻に先立って失われた故か、話題に上るのは少なかったようです。
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吉村昭は、この悲運の艦の製造に関る記録(公的記録だけでなく、関係者の記憶による談話なども)を詳細に調べた上で壮大な物語に纏めました。
                                        
この作品は多くの読者を得て、氏の出世作になりました。
この作品を読んだある造船技師は、吉村氏に対して「先生は、どこの大学で造船工学を学ばれたのですか」という意味の質問をしたというエピソードが有るそうです。
本職の技師である質問者は、戦後の卒業者で、大和・武蔵のような超巨艦の建造に関しては、経験は無く、知識も乏しかったのでしょう。とは云っても、専門家がそのような質問をしたという事は、その作品の内容が詳細・精緻を極めていたからと解せられます。

この作品では三菱重工業長崎造船所において製造に関った多くの人々の活動を活写しています。海軍の技術士官や技師・技手、民間の技師・主任級の職長・現場の工員など、各階層に応じて持てる力を最大限に尽くして国家的プロジェクトに邁進する姿が描かれています。これらの人々は有能な職場人ですが、同時に良き家庭人であり、時に両世界の狭間での葛藤も有り得るわけで、その面からの記載も有ります。

この書では今日でいう工程管理や品質管理についても、詳述しています。当時は、このような明確な概念も手法も確立していなかったようですが、数年間に及ぶ大工事でしたから、必要に応じて編み出したのでしょう。吉村昭は、このような分野についても把握した上で作品に反映させています。

一番艦の大和の建造については、前例のない超巨大艦の設計に関った人々の苦心を詳述した書物は幾つか有ります。吉村昭は2番艦の武蔵の建造を記述するにあたり、優れた設計を如何に具現化するか、それにはトップ層の鬼才・英才だけでなく、現場・末端の作業を実行する、熟練の職長とその下で働く忠実な工員の姿まで生き生きと記述しています。
先に若手の造船技師が、吉村昭を造船工学の出身と錯覚したのは、その描写が真に迫っていたからだと忖度されます。
Photo_3
この作品は海外でも翻訳出版されました。 第二次大戦中の軍事技術の開発に関わる記録は内外ともに多数に上りますが、文学者が著した
小説形式の作品が旧敵国で翻訳出版されているのは稀有な例ではないかと思われます。

「戦艦武蔵」という標題とともに、"世界最大の戦艦の建造と沈没" という副題が付いています。
これは、その建造について多くの関係者の多大の研鑽努力があり、それに伴う人間模様や秘話・挿話が在った事を翻訳者が示唆したものだと忖度できます。

                          <以下次号>
                         
                                                                                                                                                    

 



                  <未完>

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