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2018年11月 9日 (金)

No.205 : 昭和一桁生まれが学んだ教科書 (3)

[ 物象教科書 ]  旧制中学校
   老生は1942年に旧制中学校に入学しました。入学当初の教科書は国の検定に合格した複数の教科書の中から、教員が選定したものでした。
   ところが、2年次に進んだ頃に国定教科書が定められて一本化が進みました。その中で、生徒を驚かせたのは 「物象」 とい銘打った教科書の出現でした。
Photo_2   この科目は、物理・化学・地学をを総称したもので、それぞれ 「物象1」・「物象2」・「物象3」 と 名付けられました。
    何故、わざわざ馴染みのないコトバを使ったのか不明です。実物を手にして、さらに驚いたのは理系の書物には定石とされる図解や写真が無い事です。いや、数式さえも見つかりませんでした。
  書かれているのは 「何々をして見よ、これで何が判るか?」 という記述のオンパレードでした。
  今でも記憶しているのは 「ゴム紐に種々の重さの錘を吊り下げて伸びを測れ、これで何が判るか?」 という設問です。
  この実験を指示した著者は、"弾性体の変形量は加えた外力に比例する" という法則 (フックの法則) を、感得させようとしたのでしょう。
     しかしながら、ゴム紐は完全な弾性体ではないので、操作を繰り返すと弾性疲労を生じて、完全に比例するというデータは得られません。
   老生らは、実験データを指導の先生に示したのですが先生から 「いい加減な態度でやっているからだ」 と叱責され, 再三やり直しをしましたがゴム紐の疲労が進み、益々完全比例から外れたデータしか得られませんでした。
  遂に悪童どもは共謀して、データ捏造をして窮境を脱したのですが、教科書・教員に対する不信感は残りました。
  そもそも、「OOの法則」として定着するには、一代の碩学が一生を賭けて研究し、多くの研究者が追試・検証を重ねたのです。それを、未経験の生徒が手造りの機材によって手軽に再現・検証できる筈はありません。
  恐らく著者は自らは試行せずに 「こうなる筈だ」 という思い込みで、記述したのでしょう。推測すれば、ドイツでは実験・実証に重きを置いた理科教育をしている、との話を充分に吟味せずに採り入れたのだと思われます。
   在来の物理の教科書では先ず 「フックの法則」 を説明し、次いで応用例を示し、さらに計算問題を解かせる、という順序での記述でした。
   新しい物象の教科書は、実験によって法則を発見させ、それに基いて応用や計算に進む、という順序です。
物理や化学の諸法則は天下り的に存在するものではなく、身の回りの諸現象に疑問を抱いた多くの先覚者の研鑽・努力の集約の結果です。それを追体験させようとする理念は立派なものです。      
     とは云うものの、その理念を実行するには、"あらゆる学説は仮定や近似を前提としている" との原則を熟知している教員により行われるべきです。その原則を充分に把握していない教員は理系出身であっても、定説とされる法則を絶対視し、実験データが乖離すると、実験のやり方を非難する傾向がありました。
  ドイツ流の理科教育を鵜呑みにした「物象」 教科書は著者の意図を満たす効果を挙げる事なく、敗戦を迎え1947年には廃止されました。
 
<編者の独断と偏見に依る妄言>
  何時の時代でも時勢が大きく変わろうとする時に、これを好機と捉えて、勢力の拡大を図ろうとする人々が存在するようです。 ドイツ軍の電撃作戦の成功に魅惑され安易に追随したのは軍人だけでなく、教育関係者にも居たようです。
  実験を通じて学理を実体験させるという 「物象」 教科書 は H 高等師範学校の某有力教授が推進したと囁かれていました。
  独断と偏見で云うならば、嘗ての 「ゆとり教育」 が 「詰め込み」 の量を減らし、その分を 「自ら考え、生きる力を育てる」 学習に充てると称したのですが、そのような抽象的なスローガンが実現される前に、学力低下という現実が問題視されて、数年で撤回に至った事例に似ているいるように思います。

             <以下次号>
 

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