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2018年11月17日 (土)

No.208 : 昭和一桁生まれが学んだ教科書 (6)

[ 研究職についてから ]  電子企業・研究所
  大学を卒業する頃、研究指導の教授から 「諸君の学んだ学識は5年ぐらいしか保たない。それ以後は自分で研鑽を積むのだ」 との訓戒を受けました。1952年に就職した老生は数年も経たぬうちに、この話を実感させられました。
   その一はテレビ技術です。それまでの無線電話やラジオ放送に比して各段に間口の広い技術でした。映像信号のバンド幅は音声信号の1000倍以上も広い上に、扱う信号形式はアナログ映像信号とパルス(デイジタル)同期信号との複合信号です。
これらの技術は大学では殆ど教えられませんでした。米国の技術誌 "electronocs" や "RCA Review” などを読み漁り、追加実験を繰り返しました。
  その二は、マイクロ波技術でした。第二次大戦で米英の電波兵器は日独を凌ぎ、勝因の一つとされています。その中核技術としてマイクロ波技術が在りました。  
Mit_radlabbooks
戦後、その技術を集大成した文献資料として、マサチューセッツ工科大学放射線研究所叢書が刊行されました。
上図はそれを示します。索引を含めて全28巻という膨大なシリーズでした。 
この叢書は、電子技術のバイブルとして高く評価されましたが、お値段の方も最高でした。1冊あたり15ドルぐらいでしたが、当時の為替レートは1ドル360円、これに送料や取次業者のマージンを加算すると1ドル500円程にもなるので、約7500円にもなりました。それですから全巻を揃えると約21万円にもなりました。
大卒の初任給が1万円に満たぬ時代でした。個人では1冊を買うのも困難です。いや、企業でも大変でした。某一流メーカーでも政府の補助金を得て、やっと揃えたという話が有ったほどです。
このシリーズで需要の多い数冊は、直ぐに海賊版が現れました。価格は500円くらいでしたから、薄給の若手社員でも買えました。それを手にして、終業後に輪読会を開いて勉強したものです。
  その三は半導体の出現でした。これは、真空管技術こそ先端技術と思っていた電子技術者にとって、驚天動地の
革命でした。この時に、量子物理学の知識が必要だと喧伝されてパニックに襲われる一幕も有りました。
老生の職場でも "Electron and Holls in Semi-Conductor"
という定評ある書物 (早くも海賊版が出回りました) の輪講を始めましたが、3回も続かずに挫折しました。
やがて内部の動作原理を熟知せずとも、ブラック・ボックスとして動作機能を把握すれば、電子機器の設計は出来る事が判り、パニックは収まりました。折よく、そのような方針で書かれた "Principle of Transistor Circuit" というテキストが刊行され、こちらがバイブルになりました。
    その四はコンピュータを始めとするデイジタル技術の浸透でした。米国では、コンピュータは戦時中に開発されたのでしたが、日本では半導体に次いで浸透したように記憶します。それまでの電子技術は殆どがアナログ技術でしたから、正に発想の転換を要しました。
  この頃になると、電子技術の進歩は 「日進月歩」 ならぬ 「秒進分歩」 と云われる程でしたから、体系化したテキストを編集出版している時間も惜しく、速報的な解説や小論文がネットを介して流通するという形に移行しました。それらを逸早く入手して読みこなし、機器の開発応用するノルマに追われる日々が続きました。
 
<編者の妄想的な蛇足> 
    この一文を書きながら往時を追想して 「それにしても良くやったな」 との感慨を新たにしました。廃墟の中から立ち直り、高度成長を遂げて世界を瞠目させ、技術大国として世界から評価されるまでに復興・成長したのは、世紀の奇蹟と云っても過言ではないと思います。
   その過程において、恵まれない環境の下で企業の研究開発者が重ねた研鑽努力を、高く評価し後世に伝えるべきと愚考します。
  なお、この文を読まれて、日本の科学・技術は "海外の後追い" ではないか? と云う方もいるかと思われます。一時期、そのような事例があった事は否定できませんが、その後に欧米を凌ぐ実績を幾つも上げています。近年のノーベル賞受賞者の増加は、その顕れでしょう。
   また、今や日本を追い上げる勢いの某国・某々国には日本の技術文献・資料が大量に流れ込み利用されていると伝えられます。
     なお、序に憎まれ口を叩きます。
巷間、世に云う識者の中には、「日本の大卒者は、社会に出ると週刊誌の類しか読まない、それに比して欧米の学卒者は・・・・・」 などと云う方がいます。そういう方は、周囲にいる文系サラリーマンの多くが固い本を読まないのを論難するだけで、理工系の人士が激烈な国際競争に晒され、常に最新・最高の知識を得ようと努めている事実を認識して称賛・激励しようとしないのでしょうか?
              <以上>

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