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2019年9月16日 (月)

No.226 :昭和一桁生まれの読書遍歴 (5)

7. 「 大学生時代 」

    老生の時代の者は、小学生から大学生に至るまで、学制変更の連続でした。老生が小学校に入学した時点では、小学6年→中学5年→高校3年→大学3年 計17年でした。それが、大学卒業の時点では、小学6年→中学3年→高校3年→大学4年 計16年になっていました。
         その間には、種々の細い経緯がありますが、それは省略して大学生時代に話を移します。老生は某私大の理工学部に進学しました、専攻は 「電気通信」 です。当時の先端技術でした。進学したものの、大学は戦災を受け、窓ガラスは破れ、スチーム暖房は働かず、実験設備の大半は焼失と云う惨状でした。辛うじて教授の講義は続けられましたが、教科書などは無く、口述と板書による授業でした。理系の授業には、数式や図面は欠かせませんが、当時は OHP や PC による投影などは有りません。先輩の助手たちが多大の労力を費やして創ってくれた手書きのガリ版刷り (謄写印刷) 資料が頼りでした。
         その一方で学生は、戦前・戦中に刊行された教科書・専門書を古書店などで探し出して筆写しました。数人でで手分けして作業したのです。全文を洩れなく写すには時間が有りませんから、抜き書きです。また、図や写真はトレース用紙に描き写しました。当時はコピー機などは皆無でした。なお、対象にした書物には、かなりの海賊版も有りました。これは戦時下の情報断絶状態でも、第三国を迂回したり、占領地で押収した技術書が有り、それを大量に複製して軍機関などに配布したもののようです。
記憶している例では、"Ballow's Table" ,  "Yannke-Emde's Funnction Table"  などです。
         4年次になると卒業研究が課せられます。自らテーマを設定して研究・実験を行い、何らかの結論に至るまでを報告書にまとめるノルマです。そのためには、最新・最高の資料を読み、比較検討して問題を発見するのが第一歩です。その 「タネ探し」 が既に難問です。身近な資料では陳腐なテーマしか浮かばないからです。当時、米占領軍は各地に  「 CIE 図書館 」  を設けていました、占領政策の一環として米国文化を日本市民に周知させる意図があったのでしょう。その中には最新の理工系書籍が有りました。これを知った学生は日参して資料を筆写しました。
   この図書館には学生だけでなく、中堅の学者・研究者・技術者の姿が見られました。その姿を見て、若輩の我々もエキサイトさせられたものです。老生らが夢中になったのは、米国・マサセチューセッツ工科大学・放射線研究所の編纂に成る 「マイクロ波工学シリーズ」 でした。全28巻と云う膨大な叢書で、この分野のバイブルとされました。そのシリーズの中で最も多く読まれたのは、"マイクロ波技術" , "パルス技術" , "デイスプレイ技術"  だったようです。
   1950年代になると、漸く新刊の理工系図書が出版されるようになりました。記憶しているのは、共立出版の 「通信工学講座」 です。30巻ほどの大部でしたが、老生は乏しい資金をやりくりして、全巻を揃えました。老生は無線工学を専攻したので、有線工学などの書を開く機会は殆ど有りませんでした。それでも、ズラリと並ぶ背文字を眺めていると、一種の知的高揚感を得たものです。
   修教社からは「高周波科学論叢」なるシリーズの刊行が予告されました。計画では日本中の権威者を総動員し、数十冊に及ぶ大部のシリーズになる計画でした。しかしながら、僅かに数冊を出したのみで挫折してしまいました。この中の 「超高周波電子管」 は、老生の卒業研究のタネ本になりました。

8.  「 新米技術者の時代 」

    老生が企業に就職したのは1952年です。戦後7年を経て、産業界もようやく活気を取り戻しつつあった時期でした。入社した会社はラジオ受信機の生産を主力とし、別に警察用の車載無線機を手掛けていましたが、テレビジヨン放送が開始される情勢にあって、テレビ受信機の研究開発も推進していました。
    老生は無線機部門に配属されて、超短波 FM 移動無線機の研究開発に携わりました。この分野は米国では1940年代にほぼ完成した技術でしたが、日本では1950年に導入されました。この技術導入は米占領軍の強い示唆が有りました。パトカーを増強し、それに車載無線機を搭載して、機動力を持たせよ、との勧告です。国は産・官・学を動員して車載無線機国産化プロジェクトを推進しました。この時、米軍からは、1台のサンプル機器と1冊のマニュアルを貸与されました。これを前にして、十数人の研究会メンバーは、幕末に杉田玄白らがオランダの解剖学書  「ターヘル・アナトミア」  の翻訳に四苦八苦した経過を記した   「蘭学事始め」    と同様の苦労を重ねていました。
老生は駆け出しの新米技術者でしたから、研究会に参加するなどは思いもよらず、出席した上司の持ち帰った宿題を処理するのに忙殺されました。この時期な勉強したのは下記に3冊でした。
 ”周波数変調" : 八木秀次   監修、林龍雄・前田憲一  共著
 "超短波移動無線" :  染谷 勲 著
 "周波数変調" :  フント 著, 坂本捷房 訳  
これらは、読み応えのある名著でしたが、原理・原則を中心とした記述であって、機器を設計するための手法は示していません。書物からエッセンスを読み取り、具体化のための設計図を作成するのは、技師の手腕・力量に依ります。例えば書物に示された理論式から、使い勝手の良い
計算図表や数表を自ら作成し、それをベースにして設計を進めるのです。さらに云うならば工業製品としての完成度、耐久性、整備性、などは全く設計者個人の経験・力量に左右されます。

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    やや遅れてテレビジヨンの勉強も必要になりました。この分野は在来の音声伝送を主体とした無線通信技術とは、かなり飛躍したものでした。伝送する映像信号の帯域は音声信号に比して1000倍以上も広い上に、同期信号を含む複合信号です。また、放送電波は波長の短い超短波でした。この分野のテキストは下記の3冊が定番とされました。 
 "Television Engineerinng"  Fink 著
 "Theory and Design of Television Receivers"  Deutch 著
   "テレビジヨン受像機の設計”   テレビジヨン学会編
これらの書物の内容は、大学では全く習わなかったので、その理解は容易では有りませんでした。一方で世の中には「アマチュア無線雑誌」というカテゴリの雑誌が数種出版されていましたが、
これらの雑誌記事は、細かい理論は棚上げして、ハウ・トウに徹していましたから, 手っ取り早く試作実験を行うには役に立ちました。
   
とは云っても大学卒の技師の卵のプライドからすると、このような資料に全面的に頼りたくはありません。このような心境にある者にとって、頼りがいのある資料は米誌 "electronics" と "RCA Review" でした。両誌とも高度な最新の情報を判りやすく解説していました。特に、前誌には有用な設計チャートが毎号掲載されていました。後誌は電子王国を誇った RCA 社の機関誌で、実用的な回路を多く紹介していました。

         テレビの次の革新技術はトランジスターでした。それまでの電子回路の主役である真空管に代わる活性素子として登場しました。小型・軽量・低消費電力・長寿命・高耐G性などの特徴は魅力的でしたが、その動作を理解するには半導体物理学の知識が無いと使いこなせない、と云われました。そこで話題になったのは、下記の資料でした。
   "Electron and Holes in Semi-Conductors"
この書物は早速「海賊版」が現れ、大学・研究機関・メーカーなどで輪講が行われました。ただし、結果から見ると、大学理学部物理学科を例外として、殆どのグループは挫折したようです。特にメーカー系は早々にギヴアップしました。実用機器の設計に関して,迂遠な気がしたからです。
         次いで、下記の書物が現れました。
   "Principle of Transistor Circuit"
この書は、トランジスターをブラック・ボックスとして扱った最初のテキストだったと思います。真空管回路のベテランも馴染みやすい記述でした。

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   職場での問題は、上司の殆どが真空管をトランジスターに簡単に置換できると即断した事です。活性素子と云う意味
では同等ですが、有効に使いこなすには別のノウハウを積み上げる必要が有ったのです。例えば、温度特性がデリケートである、高周波では使えない、大電力を処理できない、などの弱点です。これらの弱点は次第に改善されましたが、完成の域に達していた多極真空管には及びませんでした。それを、回路の工夫で補うわけですが、実務から離れた上司は、なかなか納得して呉れませんでした。

                                           <以下次号>

 


   

 

 

 

 

 

 

  

 

                

 

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